人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ご当地ノベル『ミーナの行進』

「谷崎潤一郎賞」を受賞した、小川洋子さんの『ミーナの行進』は
私が住む兵庫県芦屋市を舞台にした心温まる小説です。

ご当地ノベル『ミーナの行進』_b0183613_2311181.jpg

熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる小川洋子さんは
目下、実際に芦屋にお住まい。
私は小川さんのファンなので、どこかの町かどか、スーパーででも会わないかなあ、と
時々ふと探してしまうのですが、そうそううまくはいきません。

神戸や京阪神を舞台にした小説はいくつかありますが、
他所に住む筆者が、ちゃちゃっとロケハンをしただけで書いてしまった作品は、
読むとすぐに分かります。
表現の底が浅いというか・・・
「その場所からそっちの場所に移動するには、その時間では行けんで・・(ー_ー;)」とか、
「この程度の描写なら、べつにここを舞台にする必然性がないやん・・・」とか、
なんか違和感というか、気持ちが引っかかってしまう。
単に神戸とか芦屋とかいう街の名前が欲しいだけなんやったら、
いっそ取り上げないでくれ、とか思ってしまいます。

村上春樹さんの処女作、『風の歌を聴け』にも芦屋が登場します。
春樹さんはこの町で育っていますから、
地元の人しか知らないような小さな公園にある猿のオリ、についての描写には、
なんか安心というか、ほっとします。


『ミーナの行進』は、筆者が毎日を過ごしている町を舞台にしているから、
読んでいると、とても設定やストーリーが自然です。
私が日々前を通ったり、目にしたり、利用したりしている、
川や道路や図書館や鉄道、駅や小学校や橋や・・・・それらが、
お話の中で生き生きと立ち上がってくるようです。
まるで本当にミーナの家族が、いまも高台の洋館に住んでいるような感覚になります。

これは、小川さんの筆力が素晴らしいからであり、
また、いい意味の“生活感”が、そのまんま損なわれずに
率直に表現されているからだと感じます。
生活感が、次第に静謐な空気感に変わっていく、その筆致の見事さといったら・・・。



ご当地というだけではなく、
『ミーナの行進』はしみじみとさせるほんとに素敵な作品でした。
言葉の組み合わせ方や、その言葉を敷衍して軽々と別世界を作り上げる、
その表現力は本当にすばらしい!

最近の小説の中には、プロットは奇想天外でおもしろいのだけれど、
文章力がなんともいただけなくて、
読むのがしんどくなる作品を散見するのだけれど、
小川洋子さんの作品はハズレがありません。
まさに珠玉のようだ、と感心してしまいます。

by fenmania | 2009-07-22 23:07 | BOOK